オーストラリアで家を持とうとする大半の人にとって、プールは豊かなライフスタイルを象徴する財産のひとつだ。
家の正面サイドとバックヤードに、 日本の人から見れば もう一軒家が建つんじゃないか と思われるほどの大きな庭があったのが “極標準的な家” の姿だった2~30年程前までは勿論、元の区画を分割して売り出すようになった結果、一つひとつの家の敷地が恐ろしく小さくなった現在でも 変わらず、新しく家を建てる人々はプールを欲しがる。
長い夏の間、アルフレスコと呼ばれるオーストラリア特有の長い庇の下のエリアで過ごす時間の長い彼らにとって プールがある風景は 欠かす事のできない夢のようなものらしい。
だから、大手からごく小規模な業者まで、または バジェットラインから高級な完全オーダーのコンクリートプール専門業者まで、オーストラリアの人口と家の数を考えたら少し過剰じゃないかと思うぐらいのプール業者が居て、DIY,ペット関連販売、家電大型店、タイヤ販売店、キッチンホールセラーなどの専門大型店の集まる商業エリアの中に プールメーカーの区画があって、様々な形と色のサンプルプールが敷地の中に並んでいる。
フェンスで囲まれ, 大小のプールやプール周りの植え込みや照明を作り込んだ屋外のディスプレイエリアの間に 営業担当者の居る建物があって、その中の机を囲んで商談する営業スタッフと御客の姿が見えたりする。
彼らは、お客と商談していない時には 頻繁にプールのディスプレイエリアに出て来て、暇つぶしにプールを見ている客に声を掛ける。
中には 真剣にプールの購入を考えている客もいて、営業スタッフは ただ、プールを見て回っている人を商談に引っ張りこむのに充分な「 明るく楽し気な雰囲気」で, ”気軽” に見積りしてみましょうと誘うのだ。
一体に プールを売る業者の営業担当者は 皆ひどく明るい。
勿論、オーストラリア人は基本的に明るい人々だが、プールを売るスタッフの明るさは それでもちょっと並外れているような気がする。
プールを作ることの中には、家本体に準ずる位の投資の大きさと テクニカルな問題や知識、クリアしなくてはいけない法規など、実際は気の重くなるような事象が結構含まれているのだが、概して その事実に気が付くのは 契約を結んで、工事が進んでいく過程の煩雑さと 出来上がってからのメンテナンスの負担に直面した時だ。
契約するまでの営業担当者との打ち合わせの中では、そういった諸問題は 軽やかな営業トークと綿密に組まれた契約工程の中に 巧みに織り込まれているので 買う側はめったに気が付くことがない。
彼らの明るく楽しい営業スタイルは これからの新しい生活に夢をはせる人々に ”プール”という夢を見せる。
どんなに楽しい夏が待っているか、子供の声、プールサイドに集まる午後、夕方にライトアップされる水辺。
プールを持つ事の中で、この営業担当者との夢にあふれた打ち合わせの時間が 最も美しくて楽しい時間なんじゃないか と疑いたくなるほどである。
実際、プールを持ってみると 屋外にある “人が泳ぐ水” をきれいに安全に保っておくことが 如何に神経と金銭を消費するものか気が付く。 水質を保って いつもプールを清潔に美しくしようと思えば、何処からか飛んで来る落ち葉を取り除けたり ポンプのバスケットを清掃したり メンテナンスに絶えず気を配る必要があるし、強い陽射しの中ですごい勢いで蒸発していくプールの水代、水質を整える何種類ものケミカル、頻繁に壊れるポンプなど 楽しい夏を送る為に 一年中プールに投資し続けなくてはいけない訳で、そういった意味で プールはお金と気苦労の両方をしょい込むのを承知の投資 という事に間違いはなさそうだ。
それなのに、プールを作る家が一向に減らないのは、新しく家を買う人々の心の中に 枯れない”プールのある家の夏” のイメージがあるからで 、だからこそ プールのある家は その分 家としての価値も高くなる。
家を生涯をそこで暮らす場所というよりか、ライフスタイルが変われば売って、次のライフステージに気軽に切り替えていく投資のひとつと考えているオーストラリアの人にとって、プールは財産の付加価値を高める方法の一つとして いつも変わらぬ大きな力を持つ。
プールが与える”終わらない夏”の夢がある限り。
陽に焼けたはだしの足がプールサイドから サラサラに乾いたレンガタイルの上を歩いてくる。
プールで濡れた髪と肌が アルフレスコに吹く風で ゆっくりと乾いていく夏。
オーストラリアのプールサイドの夢だ。